俺式18きっぷの心得、あるいは初年度から今までの微々たるアップデートについて

数年前の18きっぷの放浪まとめに対して、晒す意図はないので直接的には引用を避けるが「この人は経験を積んでいるからいいが、自分みたいな初心者が手を出すと痛い目みそう」みたいなコメントをいただいたことがあり、春の18きっぷの季節がすぐそこまでやってきているこのタイミングでふと思い出したので、それに対する誰も求めていないお節介アンサーソングを長々と書いておこうと思う。


大前提: 18きっぷの放浪に経験は要らない

「自分みたいな初心者が手を出すと痛い目みそう」に引っかかりを覚えたのは、初めて18きっぷを利用して放浪をした2015年冬からここ最近まで、やっていることがさほど変わらないからだと思う。誰しも最初は初心者であり、例えば2015年当初の私なら、もし放浪経験偏差値みたいなものがあれば、50を切っていた可能性さえある。室内で都内近郊の路線図を眺めてニタニタはしていたが、実際に一人で動いた経験は最長でも宇都宮〜大宮(と、当時の通勤経路: 石橋〜東京〜有楽町〜豊洲、乗り過ごして横浜)といった具合であった。つまり、経験を以て寝るか食うか移動するかの放浪をしていたわけではなく、衝動的にやろうと思ってしまったからやったに過ぎなかった。

18きっぷは初心者だろうと、誰にでも開かれている手段

そもそも、18きっぷという手段ひとつで多種多様な放浪ができるのが、このきっぷの醍醐味である。例えば、コメントをくださったこの方を仮にコメント氏としよう、コメント氏の意図が「18きっぷは」初心者が手を出すと痛い目みそう、だとしたら悲しいすれちがい通信を起こしている可能性がある。18きっぷの使い方に正解は何一つない。あるのは創意工夫だけである。自らを初心者だと思うのならば、初心者でも手を出しやすい旅程を組んだらいい。コメント氏がもし行ってみたいと思ったならば、ぜひその衝動を大切に抱きしめて欲しい。18きっぷはたかだか手段であり、それも、誰にでも開かれている手段であると信じている。

あるいはコメント氏が「私のような動き続ける放浪は」初心者が手を出すと痛い目みそう、と思ったとする。これに対しては2つお伝えしたいことがある。

まずは自分に何が好きかを聞いてみてほしい

第一に、私の放浪は私だけのものである。真似しようと思ったって同じ放浪は誰にもできない。天候によるハプニングも、行き先での偶然の出会いもある。だから、他人の放浪を追いかけることはそもそも難しい。いや、自分のできる範囲で同じ「ような」ことならやれるかもしれないが、それをしてコメント氏が楽しめるかどうかは甚だ疑問だ。18きっぷの放浪には正解が何一つとしてないからこそ、自分が楽しめるポイントを見つけるのが大切だと思うし、コメント氏が18きっぷに挑戦してみようと思ったなら、まずはぜひ自分に何が好きかを聞いてみてほしい。それがたまたま、私にとっては路線図をなぞり続けることであり、寝食忘れて動き続けることであり、スーパーに行ってご当地麺を観察することであり、よく分からん路地裏を歩くことであり、そして、旅先で体力的に死にかけて、かえって生きていることを実感するということだっただけである。

何が好きか分からない?
それならばいろいろな要素をなるべく含むように旅程を組んでみたらいかがだろうか。例えばこんな具合だ: 普段乗らない路線に乗ってみる/行ったことない県に行ってみる/旅先で知らないバーに入ってみる/日本の端っこに行ってみる/夜の海に行ってみる/出身者に地元にいたときによく行った場所を聞いて行ってみる/ご当地麺類を食べてみる/ネカフェで寝てみる/その日の晩泊まる場所をその日動きながら決めてみる/神社仏閣を見てみる/家や建物を観察してみる/信号機を辿って歩いてみる/変な名前の知らない駅で降りてみる

「いろいろな要素」として例示したものの、一人の人間が思いつく内容に多様性など存在しないので、周囲の人に聞いてみたらいいと思う。そうして、自分だけの「いろいろな要素」を収集し、一度放浪に出かけてしまえば、放浪した先で自分が何を見たいと思うのか、きっと認識できるに違いない。人間は知らないものを好きとも嫌いとも言えないので、一旦やってみるのが手っ取り早い。少なくとも私自身が2015年の冬から経験を重ねてきて上手くなったのは、自分の好みに合わせて放浪をカスタマイズすることだったように思う。自分だけの目的を満たす放浪ができることこそが、この18きっぷの優れた点ではないだろうか。

経験より必要なのは衝動と覚悟、それから自分の心の柔軟性

第二に、衝動を大事にして覚悟さえ持てば、経験など要らないということである。前述の通り、初めて18きっぷを使ったその時から今まで、自分自身もやっていることが大して変わらず、経験が必要だとどうにも思えない。まずは経験などなくても行ってみようと思うことから、すべてが始まっていく。幾度も18きっぷを利用して放浪を重ねてきたがそれでも、少なくとも放浪においては、経験があればできるようになることなんてほとんどないように思える。どれだけ経験を重ねてもアップデートされることなんて微々たるものだからこそ、初心者のうちに自らの衝動に向きあい、踏み出すことが大切ではないだろうか。

ただし、初心者でも覚悟は必要だ。ここでいう覚悟というのは「許容度を上げる」とほぼ同義である。つまり、いかなる手段を使っても、決まった回数のきっぷを使い切る覚悟を持ち、そのために許容度を上げるということである。誰にでも開かれているとは書いたが、このきっぷには向き不向きが確実にある。これは経験の差ではなく、前述の目的や予算や快適性などの許容度によるものであり、この許容度が高い放浪に向いているのが18きっぷである。

例えば、旅先で天候によるハプニングは日常茶飯事だ。そのとき、特定の神社仏閣を見るのが最優先の旅程だとしたらきっと困るだろう。同じようにキャンセルが効かないホテルや新幹線に乗り換えるほどない予算も、18きっぷでは制限となる。最も向いているのは、その日やりたいことをその日の状態で決めていくことだが、そうでなくても例えばキャンセルが効くホテルに泊まる、新幹線や飛行機に乗る予算を確保する、最悪横になって寝られなくてもいいやと腹を括るなどで制限を外すことができる。これは経験ではなく仕様の問題なので、初心者だからといって諦める必要は一つもないし、逆にいくら旅慣れている人間だとしても18きっぷを利用するというのに制限を増やせば、そのよさを活用できないだろう。

加えて、目的や予算や求める快適性というのはあくまで外堀であり、放浪先での許容度の範囲を大きく広げるのは自分の心理状態だと考える。つまり、想定していなかったような出来事が起きたときに、それをも楽しめるかということだ。実際のところ、目的がかっちり決まってようとも、予算が無かろうとも、求める快適性がシビアであろうとも、それが失われそうになったときにそれをも柔軟に楽しめるか問われやすい。別に楽しまなくてもいい。どう向き合うかは個人の自由である。けれど、ハプニングをもおいしいと思える柔軟性を持てば、放浪の許容度を大幅に上げ、18きっぷを使い倒しやすくなるのは間違いない。なお、よくないハプニングばかり触れてしまったが、旅先での嬉しい一期一会もまた日常茶飯事であることを、念のため付記しておく。

経験は要らないが、知識はあるほうが選択肢の幅は広がる

ここまで書いた通り経験は不要だが、前提知識があるほうが旅先で取れる選択肢の幅は広がると断言できる。必要に応じて下記について調べておくと、18きっぷのルール範囲の中で限界まで使い尽くすのに役に立つだろう。きっとそのための知識をまとめてくれているページは数えきれないほどあるはず。最新情報を得ることが大切なので、更新日などでフィルターをかけて検索をすることをおすすめする。

  • 基本的に乗れる列車: JRの普通列車が指す範囲
  • 乗れる特急列車
  • 乗れる観光列車
  • 座席指定すれば乗れる特殊な列車、乗れない列車
  • 乗れるフェリー
  • 乗れるBRT/代行バス
  • 第三セクターの特例通過利用範囲
  • 乗り換えでよく混む駅
  • (18きっぷ外だけど、効率のいいワープどころ)

とはいえ、私の初めての18きっぷに前提知識はほぼなかったので、無いなら無いなりに放浪に出かけてしまえばいい。経験より知識より、衝動と覚悟と柔軟性のほうがずっと大切だと思う。

経験を積んだことによる微々たるアップデートの話

さまざまな18きっぷ利用者がこうすべき、ああすべきだと書いているが、基本的に私は「すべき」ことはないと思っている。経験も知識も無いなら無いなりにと書いた通りで、そこまで含めて試行錯誤するのが18きっぷの醍醐味だと思っている節さえある。初回ともし今年放浪するならで何が変わったか、微々たるアップデートを一応記してみるが、数年も繰り返し経験こそ積めど、変わったのはたったのこれだけだと示す意図しかないことを付記する。少なくとも、初回の18きっぷを持っている自分にもし何か伝えられるとしても、このような経験からアップデートしたことは絶対に伝えない。最も効率化から離れたきっぷを手にしているところで、他人であるコメント氏はさておき、少なくとも過去の自分に対しては右往左往を取り上げてしまうようなネタバレはしたくないなと思っており、経験なんかなくてもいける気がしている人にとっては、これ以降は蛇足なのでそっとページを閉じていただきたい。

だいたいのものは放浪先で手に入るという意識のダウングレード

これはアップデートではなく、むしろダウングレードな話である。初回はあれもこれもと積んでいた気がするのだが、いつだったか困ったら放浪先で買えるということに気づいてから、準備が雑になってしまった。気が付かないほうがよかった話である。ここ数年の放浪先ではいつも充電器を欲している気がする。本当によくない。

大きなスーツケースからリュックサックあるいはザック(20-30L)

初回の18きっぷではなぜか岡山の友人に、不要になった本を届けることを約束してしまい、スーツケースの半分に本を詰め込んでいた。ちなみに、これによって起きた弊害はいくつかあるのだが、最も印象に残っているのは当時エレベーターやエスカレーターが(おそらく)無かった伊予西条の駅で、体力的限界で荷物を持ったまま階段を昇ることを諦め、謎の湧水しかない寒いホームで40分待ちぼうけたことだった。次に思い出すのは、中田島砂丘で砂の中スーツケースが動かせなくなったこと(当たり前じゃないかと今なら思うけど)。逆に言えばこれ以上辛かったことはない上、簡易的に椅子にしたり机にしたりと便利なこともあったので、別にスーツケースでもいいんじゃないかと思う。それでも現状のスタイルとしてリュックのほうが便利な放浪をしているので、リュックに切り替えている。

服は洗えばいい

前項の裏側だが、服は放浪先で洗えば2−3日分で済むという解を2年目には得ていた気がする。冬はインナーだけ替えるとかいう、潔癖症の人には耐えられない解も同時に得ている。これによって大幅に荷物が削減できている。

ジッパー式圧縮ケースを買った

初回〜3回目くらいまで、いわゆる圧縮袋を使っていたんだが、旅先で閉じなくなるというハプニングが勃発して、再発防止策を検討していたところでジッパー式の圧縮ケースという答えを得た。ジッパー式圧縮ケースなどと書いているのは、自分が持っているものの商品名をきちんと把握していないからである。とりあえず「圧縮バッグ」とか検索すれば出るんじゃなかろうか。

18きっぷケースを買った

何年のことだか覚えていないが、18きっぷとかもはや関係なく、神保町の書泉に鉄道フロアがあると知ったタイミングで行ったら売ってたので買った。18きっぷは改札を通らずに駅員にきっぷを見せて利用するため、常に出しやすい位置にきっぷがあるというのは何かと便利。あと、きっぷを無くしやすい人間にとっても、ふとした瞬間にどこかに気付かないうちに入れてしまうというミスを防止できてよい。

限界度を上げた

すべてにかかる話だが、放浪しながら体力的に死にかけるのがどうも好きらしいと初回に気付いてしまった。なんなら初回の帰宅後、さくっと39℃ほどの非インフルエンザの熱が出たことさえ、生きてると実感できて嬉しさを感じていたと記憶している(こう書くと単なるやばいやつっぽくて草)。そこから意図的に、一人で18きっぷを利用するなら始発から終電まで動き続けるということをやっているので、それに対応する形で持ち物を変えてきている。リュックや18きっぷケースはその最たるものである。

このくらいでは?

実のところ、経験によって旅の内容をアップデートはしてきたものの、最初からここにたどり着きたかったかというとそうでもなく、やっぱりその試行錯誤まで含めて面白かったように思える。もしこれから18きっぷを使った放浪に出かけようとする人がいれば、最初から完璧さを求めるよりも、自由の効くきっぷを最大限に活用して、ぜひ自分の心地よさを模索してみることを個人的にはおすすめしたい。人には人の18きっぷなので。

©︎moemarusan